Episode3

 

東海道とクリスマス 〜有松〜

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名古屋ラーメン


屋上の球体


ツリーの間で


寒々しいホーム


亀山駅前 

 

 さて、有松宿を一通り歩き終えたところで、再び名古屋駅に戻ることにする。表題通り、次はクリスマスである。しかし実はまだ、東海道との縁が切れたわけではない。その辺りはまた後で説明しよう。

 行きと同じく、名古屋駅まではすぐである。すでに陽は落ちたが、まだ少々明るすぎてイルミネーションは見栄えしない。時間つぶしに、巨大な名古屋駅の中をぶらぶらする。しかし世界一の駅ビルとは言え、大半はオフィスとホテルであり、見るところは限られる。歩くうちに、「名古屋ラーメン『なご家』」という店を見つける。なんだ? 名古屋ラーメンて。てゆうか、あまりにそのまんまのネーミングではないか。特に御当地ラーメンが好きだというわけでもなく、食べたことがあるのは和歌山ラーメンくらいだが、ついふらふらと店に入る。名古屋ラーメンは、鶏のダシがベースのスープで、つまりは名古屋コーチンが使われているわけなのだった。一度は食べてみてもいいのではないか、と思う。なご家。

 店を出て再び駅構内に戻ると、何か様子がおかしい。改札口の前に、人だかりができている。何だろうと思いつつ近づいてみると、人身事故で米原方面への東海道本線不通、とある。しかも上下線ともなので、これは現場がかなりひどいことになっているようだ。復旧まではかなりかかりそうである。

 駅の外に出てみると、さすがにすっかり陽も落ちて月が浮かび、三つ並んだツリーのイルミネーションがきれいである。あの名高い大名古屋ビルヂングの上では球形のネオンが回転していて、時折コカコーラの瓶の形が浮かび上がるのも楽しい。かなりの人出で、当たり前だがカップルが多い。写真を撮っている人も多いが、携帯電話のカメラを使っている人が圧倒的で、あれでは彼女もツリーもまともに写らないのではないか。もっとも、巨大な一眼レフで記念写真を撮るのも、相手に気味悪がられるだけだとは思うけども。

 様子を見に、改札口のほうに戻ってみる。しかし、状況に変化はなかった。これは、まずい。今日中には家に帰らなければならないのだ。東海道本線が駄目なら、代替コースを考えるしかない。手っ取り早いのはもちろん新幹線だが、料金がかなり高い。近鉄特急と言う手もあるが、奈良経由になるので時間がかかるし、こちらも特急料金は安くない。

 結局僕が選んだのは、関西本線で桑名、四日市、亀山を経由して、柘植から草津線で草津に出るという迂回コースであった。ローカル線ばかりだから決して速くはないのだが、この経路を選んだのにはわけがある。お気づきの方もおられるかも知れないのだがこのコース、〜水口間を除けば旧東海道にかなり近いルートなのである。今の東海道本線は、名古屋と草津の間では旧東海道と全く違う場所を通っていて、ちっとも東海道本線ではないのだ。一つ今回は最後まで東海道にこだわってみよう、とまあそういう理由なのである。

 名古屋駅を出発した電車は、高架の関西本線を突っ走る。線路は立派なのだが、数駅を過ぎた辺りから車窓は急激に寂しくなる。いわば表玄関に当たる東海道本線方面と違い、関西本線の沿線はまだあまり都市化が進んでいないようだ。それでも、四日市などの衛星都市を通る路線ではあるので、乗客の数はまずまず多い。少なくとも、ローカル線のイメージはない。

 電車は、亀山で終着である。ここから先は電化されておらず、ディーゼルカーが二両で走る。同じ関西本線でもここからは別世界で、完全なるローカル線である。紀勢本線と分岐する主要駅であるから、ホームは立派で、しかし立派さ故にきわめて寒々しい。次の列車への乗り継ぎ待ちが三十分ほどあるのだが、こんな所で時間をつぶすのは願い下げだ。亀山と言えばそれなりの町であるはずだし、駅前にでも行ってみよう。

 こうして改札を出てはみたものの、駅前は静まり返っていた。一つの都市の中心駅とはとても思えない閑散ぶりだったが、しかしその静けさの中でもなお明かりを灯しているいくつかの商店の姿には、心安らぐものがあった。誰もいない通り。「旅館」の「旅」の字が消えたネオン。和菓子と同じショーケースに並んだケーキ。これが、亀山駅前のクリスマスだった。

(後記)
亀山の町の中心部は、駅からかなり離れているようです。従って、駅前だけの印象では、どんな町かは分かりません。亀山宿の名残もいくらかは残っているようなので、また訪れてみたいと思います。なお、関町が亀山市と合併したため、関宿も今は亀山市内になっています。

  次回(Episode4)は、
水郷を行く 〜潮来・佐原〜」です

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