Episode7

 

瀬戸内町並み紀行 〜御手洗・笠島〜

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万能の雑貨屋、右奥には洋館風の蜜柑御殿


路面電車の未来世紀がここに


酒祭りのにぎわい


ダイナミックな瀬戸大橋。雨で写り悪いですが


リゾートの廃墟、椰子も泣く

 

 再び大長の町へ戻る。ここから高速船に乗って、広島港まで直行することになるのだが、船の時間まではまだしばらくあるので、町なかを歩いてみることにする。第一回でも触れたのだが、この町には蜜柑の儲けで建てたと思われる、立派な家がいくつも見られる。ところがこの豪邸群、いわゆる日本家屋とは全然違う。いずれも、洋館風の板張りで、しかも三階建てのものがいくつも見られるのだ。重伝建として知名度の高い御手洗と違い、こちらは全く知られていないのだが、これはこれで個性的な町並み風景だと言えるだろう。

 停泊する農船の群や、本屋と薬屋とナショナルのお店が一体になっているという、すごい雑貨屋などを眺めて歩くうちに、たちまち時間は過ぎ去り、我々は大長港を出航した。あとはただ寝ていれば、船が広島へと連れていってくれるはずだ。かなり疲れていたせいもあって、実際、この船ではずっと眠っていた。途中で、呉に寄港したことだけを覚えている。港を山が囲んでいるという、長崎と良く似た地形だけに、夜景がなかなかきれいであった。

 こうして広島港に着いたわけだが、さすがは大都会、旅客ターミナルのビルは空港を思わせるような立派なものだった。しかしさらに驚かされたのは広島港駅で、ここから路面電車に乗り換えて市内に向かう訳なのだが、とても路面電車とは思えない大ターミナル。そこに、小さな電車がずらり並んでいる様は、まるで未来都市のようだ。いずれLRTの時代がやって来るというのは本当なんだなと、いやでも納得させられる。 

 ホテルにチェックインした後、とりあえず広島焼きでも食べようと夜の繁華街に出る。こんな大きな町に泊まるのは久しぶりなので、いかにも都会な感じが嬉しい。大阪とか京都に比べて、特段のことはない筈なのだが、見知らぬ都会というのはやはり楽しい。広島焼きは、コテで食べようとしたのだが挫折した。あれは、難しい。

 翌日は、東広島市の西条に向かう。この町は、灘・伏見と並んで三大銘醸地に挙げられるほどの酒どころなのである。ところが山陽本線の電車に乗ると、これが異様なほどの大ラッシュ。実はこの日、西条では年に一度の「酒祭り」が開かれていたのである。偶然なのだが、静かに酒蔵巡りをしようとしていた思惑は、お陰で見事に外れることになった。祭り自体は楽しくて悪くなかったが、また普通の日にも来ようと思う。

 福山を経由して岡山へと向かい、その日は岡山駅前で泊まることにする。二泊連続で都会に泊まることになったわけだが、さすがに広島に比べると夜は静かである。シンフォニーホール近くのおしゃれなカレー屋さんで夕食を取ったのだが、ベンガル地方のカレーというのが、かなり美味しかった。もっとも、店内の常連と思える人たちが、京都の話題(それも地元民しかわからないような)で盛り上がっていたのが不思議であったが。

 さて、三日目はいよいよ、御手洗と並ぶメインテーマである笠島の町並みへと向かう。笠島集落がある塩飽本島へは、岡山の児島観光港(何と倉敷市。倉敷には港があるんですよ)から渡ることになるのだが、この船は瀬戸大橋の真下を通ったりして、なかなかダイナミックな眺めが見られて面白い。そんな風景を眺めているうちに、塩飽本島が近づいてくる。実は、この船が着く泊港から笠島集落まではちょっと距離があるのだが、レンタサイクルがあるという情報を得ているので安心である。レンタサイクルは、港のそばにあるリゾート施設で借りられるはずである。ところが。

 港が近づいてくるにつれて、リゾート施設の全貌が次第に明らかになってきたのだが、何だか様子がおかしいのである。いくら昼間とはいえ、ホテルの窓に灯り一つ見えないのは妙ではないか。どう見ても、人の気配がない。上陸してさっそく確認しに行くと、やはりここは廃墟と化していたのだった。仕方ないので、歩くことにする。二キロくらいだから、大した距離ではない。自転車などに乗って、楽をしてはいかんということなのだろう。結果的には、歩いたのは正解であったと思う。島ののどかな雰囲気を、十分に味わうことができたからだ。ただ、ある苦難が待ち受けていたのだが、その時の我々には知る由もなかった。
(紀行文史上初、第四回へ続きます)

 

 Chapter4へ続く

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