Episode4

 

水郷を行く 〜潮来・佐原〜

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湖岸の道


霞ヶ浦の夕暮れ


駅前のにぎわい


常陸利根川。向こう岸が加藤洲


赤信号の水門


 

 そしてついに、霞ヶ浦の湖面が彼方に見えてきた。ちょうど沈もうとしている太陽が雲の合間からのぞき、湖水がきらきらと輝いている。国道はそこからひたすら湖に沿ってはいるのだが、湖岸のすぐ横を走っているわけではなく、ちょっと距離がある。どうせなら、湖のすぐ横を走ってみたい。ナビゲーションの画面を見ると、狭そうではあるが、湖岸のすぐそばに道があるようだ。国道を離れて、湖に近づいてみることにする。

 その道は確かに狭かったが、十分車が通れる幅があった。ハンドルを切り損なったら水に落ちそうなくらい、本当に湖岸すれすれの道である。琵琶湖で言えば、湖周道路に当たるわけなのだが、こちらの道の交通量はきわめて少なくて、速度を落としてのんびりと走ることができた。

 時々車を止めて、湖を眺める。琵琶湖に比べると、何か緊張感のない、穏やかな雰囲気が感じられる。これは地形の差によるものかも知れない。霞ヶ浦の周辺はほとんどが平地で、水深も最大で数メートルしかない。これに対して琵琶湖は、比良山などの山に囲まれ、水深に至っては最大で100メートルを超える。この深さは、ちょっと怖いほどである。奥琵琶湖の幽玄も良いのだが、こののどかさも悪くない。来て良かったと思う。

 湖岸をひたすらくねくねと南下して行くと、一時間ほどで霞ヶ浦の南端に達した。思っていたよりも早く、やはり琵琶湖よりはかなり小さいのだなと思う。霞ヶ浦を離れて間もなく、潮来の町である。常陸利根川沿いのこの町で、今日は泊まることになっている。

 ちょうどその日の夜はお祭りで、潮来駅前には沢山の見物客が集まっていた。「潮来節」に合わせて、12組のチームがそれぞれにアレンジした踊りを披露するという、最近流行のタイプのイベントである。しかし、駅周辺の市街地はずいぶん規模が小さくて、祭りがなければかなり寂しかっただろうと思う。今は「潮来市」なのだが、数年前に合併するまでは「潮来町」だったのだ、と言うことは帰ってきてから知った。

 翌朝はいよいよ、今回の旅行のメインである「十二橋巡り」である。船頭さんが竿一本で操る「さっぱ舟」と呼ばれる舟で、水路を巡るのだ。この手の舟は、福岡柳川のドンコ舟や前述の近江八幡、地元京都の伏見十石舟などあちこちで乗っているが、どこも楽しかったので期待できそうだ。ちなみに、近江八幡市は「水郷」を商標登録しようとして、潮来市・佐原市、さらに柳川市ともめている。最終的には「江州水郷」と言う名前で決着したそうだが、こういうめちゃくちゃなことは二度とやめてもらいたい。

 ホテルのすぐそばにある舟乗り場で、女船頭さんの操るさっぱ舟に乗り込む。ゆっくりと水路を進み始めたさっぱ舟だったが、やがてエンジンの音を響かせて、突然加速し始めた。振り返ると、何と船尾には船外機があるではないか。驚いているうちに、舟は前方の水門をくぐり抜けて、広々とした川へと乗り出して行く。常陸利根川である。この小さな舟の低い視点からは、とてつもない大河のようにも見える。しかし船外機フルスロットルのさっぱ舟は、すごい勢いであっと言う間にこの大河を横断してしまった。県境を越えたので、こちらは千葉県の佐原市である。

 これもあとで知ったことだがこの「十二橋巡り」、かなり紛らわしい名称なのである。同じ十二橋でも潮来側の「前川十二橋」と、常陸利根川を越えた佐原側の「加藤洲十二橋」の二つがあり、しかもどちらも潮来から舟が出ているのだ。歴史があって有名なのは実は佐原のほうなので、乗るときには気をつける必要があるだろう。

 さて、大河を横断し終えたさっぱ舟の前方に、再び水門が現れた。ところがその水門は堅く閉ざされ、しかも赤信号が灯っている。やはり千葉県へは、そう易々とは入れてくれないのだろうか。

 しかしやがて信号は青に変わり、水門が開く。招き入れられるように進入したさっぱ舟だったが、前方にはもう一つ閉ざされた水門があり、それ以上は進めない。立ち往生している間に、今度は最初の水門までもが再び閉鎖されてしまった。舟は前後二つの水門の冷たい鉄板に挟まれ、もうどこへも行くことができない。そうしているうちに、水面が急速に下がり始める。ここで初めて気づいた。これは閘門だ。

 閘門とは、水位の違う二つの川などの間を舟で行き来するために造られた施設で、パナマ運河のものが有名である。もちろん舟で通るのは初めてだ。ここの閘門は非常に小さなものではあったが、それだけに仕組みがわかりやすく、楽しかった。水面の調整が終わると、やっと前方の水門が開く。ここからは人力で、舟は水路を進み始める。行く手に、一つ目の橋が見えてきた。

 

 

 Chapter3へ続く

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